老い科学研究所 認知症編
第5章介護現場からの発信
現場で出会った場面と、
そのときの対応
プロジェクトチームの職員が、介護の現場や自身の家族との関わりの中で実際に出会った場面と、そのときの対応をご紹介します。
正解はひとつではありませんが、ご家族の関わり方のヒントになれば幸いです。
「もしかして?」認知症の始まりに気づいたサイン
- 孫の名前の漢字が書けなくなった(そのときは笑っていたが…)
- 主語がないまま話し始め、「それ」「あれ」が増えた
- 買い物のたびに同じ物を買い、冷蔵庫が同じ物ばかりになった

帰りたい・落ち着かないとき
こんなとき夕方になると荷物をまとめ、「帰る」と歩き回ったり、訴えが強くなったりする(夕暮れ症候群)。
こう対応しました「もうすぐご飯ですよ」と伝えたり、場所を変えたりします。それでも歩き回るときは、ご本人が椅子に座って落ち着くまで一緒に付き合います。
こんなとき施設に仕事で来ていると思っている様子で、夕方になると「もうミシン掛けは終わりました。帰らせてもらいます」とおっしゃる。
こう対応しました「もうしばらくしたらお送りしますね」とお返事し、安心していただきます。
こんなとき家が好きな方が、ご家族の負担軽減のためショートステイ(短期入所)を利用。午後から帰宅願望が強まり、夜も眠らずに過ごされた。その後はショートステイを拒むように。
こう対応しましたご本人には「なぜ泊まりに行かなければならないのか」がわからず、それが拒否につながっていました。まずはデイサービスに休まず通うことから始め、少しずつ慣れていただくようにしています。
こんなとき軽い認知症の親が、早朝5時に「ブロッコリーを届ける」と自転車で生家へ出かけてしまった。家がわからず帰ってきたようだった。
こう対応しましたそっと見守り、生家にも電話を入れておきました。「迷っても近所だから」と、家族で笑って過ごすようにしています。

ご本人の見ている世界を否定しない
こんなとき「ベッドの上や下に小さい虫がいっぱいいる。あんたらには見えんのか」とおっしゃる。
こう対応しましたほうきで掃く真似をして、「はい、もういなくなりました。安心してください」とお伝えします。
こんなとき「ベッドに娘が寝ているから、起こして学校に行くよう言ってほしい」と頼まれる。
こう対応しました「わかりました。今起きてもらって、学校に行ってもらいますよ」とお応えします。
こんなとき雨の中、外に出て「もう一人が帰ってこない」と泣いている。ご本人の中では実在する人だが、家族にとっては心当たりのない人。
こう対応しました「もう帰っていますよ」と伝えて、まずは家に入ってもらいます。その後も「今お風呂に入っていますよ」などとお伝えし、安心していただきます。
こんなとき鏡に映った自分を自分だと思わず、「あら〜、かわいい子。どこの子かね〜」と話しかけている。
こう対応しました否定せず、話を合わせます。
こんなとき観光ガイドをよく読んでいて、行ったことのない場所の話を、実際に行ったかのようにリアルに話される。
こう対応しました「すごいね」「そのとき、どんな感じだったの?」と興味を持って質問すると、とても楽しそうに話してくださいました。
こんなときみんなで食事に集まると、昔を思い出して仕事モードになり、会議が始まる。周りの方が「自分は何をしたらいいのか」と不安になり、落ち着かなくなってしまう。
こう対応しました言葉を添えながら一緒に聞き、会議にお付き合いして、最後に大きな拍手を。周りの方には、それぞれの状態に合わせて席を外していただいたり、話を合わせて後でフォローしたりしながら、皆さんの前でご本人や皆さんのことをほめるようにしています。

伝わりにくさ・拒否があるとき
こんなとき言葉がうまく伝わらない。
こう対応しましたジェスチャーを交えたり、言い方を変えたりして伝えます。一緒に動作をしてみせるのも効果的です。
こんなとき思いを言葉で伝えられず、介護への抵抗として、ひっかく・つねる・かみつくといった行為がある。
こう対応しましたいったん話題を変えるか、声をかけながらその場を離れ、時間をおきます。
こんなとき食事の直後から「ご飯を食べていない。何ももらっていない」と繰り返される。
こう対応しました「今ご飯を作っていますから、このお菓子を食べて少し待っていてくださいね」とお伝えし、空腹感を和らげていただきます。

環境と暮らしの工夫
こんなとき廊下の手すりより少し高い位置にある帯状の模様を手すりと間違え、つかもうとして転倒してしまった。
こう対応しました模様の上に入居者の皆さんが作った貼り絵を貼って隠し、本物の手すりが目立つようにしました。
こんなとき家では認知症の症状がはっきり出ているのに、外に出ると「よそ行きの顔」になる。
こう対応しました外の刺激をどんどん浴びていただくようにしています。外出用の服に着替えるなど、装いにも変化をつけて出かけます。
こんなときアルツハイマー型認知症で、自宅での生活はできる程度。ただ、草むしりを始めると何時間も続け、テレビを見始めるとずっと見ている。
こう対応しましたご本人の判断では区切りをつけにくいため、家族が時間を見て声をかけるようにしています。
こんなとき軽い認知症の家族が、ほかの家族のバスタオルをお風呂場で使い、きれいに畳んで元の場所に戻していた。
こう対応しました家族で情報を共有し、使ってほしくない物は共有スペースに置かず、その都度持ち運ぶようにしました。
こんなとき食事やおやつの時間ではないのに、食べ物ではない物を口に入れてしまう(異食)。
こう対応しました居室やその周りに口に入れそうな物を置かないよう配慮し、空腹感を満たすため1日に何回か小分けにしたおやつをお出ししました。専門医の診察を受けてお薬の調整も検討し、体重が減っていたため、ご家族にもご協力いただき栄養補助食品を取り入れています。
入居されてしばらく経った方に
「少し慣れましたか?」と伺うと、
「いいえ、私はずっと前からここにいますよ」と
笑顔でお返事が。
周りの方となじまれたことが伝わる、
ほっとする瞬間です。
老い科学研究所 プロジェクトチーム(介護現場の職員)より